学会設立にあたって
本邦の慢性腎不全透析人口は29万人を突破し、国民400人に1人の割合にまで高まりました。わが国の透析医療の水準は世界一であり、40年以上の生存例など長期延命にも成功しています。その一方で新規導入透析患者の平均年齢は68歳、透析人口全体の平均年齢は67歳と年々高齢化しており、重複障害を有する割合が高いです。
腎臓リハビリテーション(以下、腎臓リハビリ)は、腎不全患者に対して、運動療法、教育、食事療法、精神的ケアなどを行う新たな内部障害リハビリです。主要な構成要素である運動療法は、栄養低下・炎症複合症候群改善、異化抑制、運動耐容能改善、QOL改善などをもたらします。
透析患者の運動耐容能は心不全やCOPDのADLと同程度まで低下しています。運動をしない透析患者の生命予後は不良であることが判明し、透析患者においても積極的に運動することが推奨されるようになってきました。さらに透析の最中に運動療法を行う方法も開発されました。
最近では、保存的腎不全患者においても、適度な運動は、腎機能には悪影響を及ぼさずに運動耐容能やQOLの向上、糖・脂質代謝の改善などのメリットをもたらす可能性があるという報告や、低タンパク食摂取下でも運動がタンパク異化を防止するという報告もあり、腎機能障害患者の活動を過度に制限すべきではないことも示唆されています。また、各種腎不全動物モデルラットでの研究では、長期的運動の腎機能保護作用とそのメカニズムも解明されてきています。
しかし、様々な関連学会における腎臓リハビリの発表演題数やその聴衆はいまだ多くなく、医療者および患者双方の腎臓リハビリに対する理解、腎臓リハビリの研究ならびに科学的かつ合理的な腎臓リハビリの実践に関してもいまだ十分ではありません。腎臓病学、透析医学、循環器病学、リハビリ医学のそれぞれで世界をリードしているわが国の現状と比較すると極めて残念な状況にあると考えられます。
この状況を打開すべく、また腎臓リハビリの発展に御支援をいただいた方々からの御要望もあり、腎臓リハビリの一層の普及ならびに医学的発展を目的として、医療関係者や研究者の職種を超えた学術団体である「日本腎臓リハビリテーション学会」を設立しました。腎臓リハビリの普及・発展のために、そして多くの腎機能障害者の福音となるように、本学会が寄与できるように発展することを願っております。
2011年1月
日本腎臓リハビリテーション学会
理事長 上月 正博